はじめまして、生産技術コンサルタントの佐伯健治と申します。電子部品メーカーで15年ほどライン設計をやってきて、独立して3年目になります。専門は液体材料の自動塗布、いわゆるディスペンシングまわり。エポキシ、シリコン、ウレタンの2液性材料を扱う工程の立ち上げを、これまでにそれなりの数こなしてきました。
中小製造業のコンサルティングを始めてから、よく相談を受けるのが「2液の混合吐出を導入したのに、思ったほど歩留まりが安定しない」「装置メーカーの説明通りに使っているはずなのに不良が出る」というお話です。気持ちはよくわかります。私自身、現役時代に同じ壁に何度もぶつかってきました。
混合吐出という技術は、カタログのスペックを眺めているとシンプルに見えます。でも、実際にラインに組み込んでみると、装置・材料・環境・人のどれかが少しズレるだけで、すぐに品質に跳ね返ってくる。地味だけど奥が深い世界です。
今回は、私が現場で何度も繰り返し対峙してきた「混合吐出のトラブル」を5つに絞ってまとめました。それぞれ、症状と原因、そして現場で実際にやってきた対処法をセットで紹介します。これから2液ディスペンサーを導入する方、すでに使っていて改善したい方、どちらにも参考になるはずです。
目次
混合吐出は「装置を入れたら終わり」ではない
本題に入る前に、ひとつだけお伝えしておきたいことがあります。
混合吐出の不具合は、装置単体の問題で起きることのほうが少ないという事実です。私の感覚では、原因の半分以上は「材料側」と「運用側」にあります。装置だけを疑って中を分解しても、結局は材料温度や容器交換手順に戻ってくる。
なぜそうなるのか。2液性の材料は、混ぜた瞬間から化学反応が始まる時間軸を持つ素材です。エポキシも、ウレタンも、シリコンも、可使時間(ポットライフ)という制約がある。つまり、止まれば固まる、温度が変われば反応速度が変わる、空気を巻き込めば硬化が乱れる。普通の塗料や水ものとは違う、繊細さがあります。
この前提を頭に入れた上で、次の5つのトラブルを見ていただきたいと思います。
トラブル1:混合比のズレ(配合不良)
最初に挙げるのは、現場で一番よく相談される混合比のズレです。設定したA剤とB剤の吐出比率が崩れる現象を指します。
起きる症状
- 硬化時間がいつもと違う(早すぎる、遅すぎる)
- 表面がベタついて完全に固まらない
- 内部にクラックが走る
- 色ムラや艶ムラが出る
- 強度が出ない、剥がれる
ロットによって品質がばらつく場合、まずこれを疑います。日本接着剤工業会が公開している接着剤の基礎情報でも、2液性接着剤は配合比が±5%を超えると硬化に影響が出ると整理されています(日本接着剤工業会)。手作業の混合と違って、装置の場合は微妙な精度劣化が継続的に出るので、気づいたときには大量の不良が出ている、というのが怖いところです。
主な原因
混合比がズレる原因は、ざっくり次の4つに分けられます。
- ポンプやバルブの摩耗、逆止弁の劣化
- A剤とB剤の粘度差や粘度変動
- 容器交換時や配管接続部からのエア混入
- スタティックミキサー内部の残留・硬化
特に多いのが、エア混入とミキサー残留です。装置自体は正常でも、運用が雑だと簡単にズレます。
現場でやってきた対処法
対処の基本は、ポンプ点検と温度管理、エア対策、ミキサー定期交換の4点セットです。具体的に私がやってきたのは次のようなやり方です。
- 始業前にA剤・B剤を別々の容器に1ショットずつ吐出して、重量を電子天秤で測る(これだけで配合比のズレを早期に検知できる)
- ポンプ・逆止弁の点検サイクルをカレンダーで管理する(経験則で年1〜2回が目安)
- 容器交換時のエア抜き手順を作業手順書に明文化する
- スタティックミキサーは交換タイミングを「使用ショット数」ではなく「日数+目視」で管理する
地味ですが、これだけで現場の不良率はかなり落ちます。電子天秤を1台買うだけで、装置の状態が見える化できる。コストパフォーマンスは抜群です。
トラブル2:気泡混入
見た目で気づきやすいトラブルですが、見えない気泡が品質に与える影響は侮れません。
起きる症状
- 硬化後の樹脂内部に気泡が見える
- 透明樹脂の場合、白濁したように見える
- ポッティング材の絶縁性能が落ちる
- 接着強度が不安定になる
- 外観不良で目視検査の通過率が落ちる
電子部品のポッティング工程で気泡が入ると、部品自体の絶縁性能や放熱性能に直結します。特に高電圧を扱う部品では、わずかな気泡が絶縁破壊の起点になることもある。
主な原因
気泡が入る経路は、思ったより多くあります。
- 容器交換時にA剤・B剤を吸い込む過程でエアを巻き込む
- 配管の接続部やパッキンの劣化からの吸い込み
- 加圧不足で材料が引っ張られて減圧域ができる
- 撹拌時に空気を巻き込む(高粘度材料に多い)
- スタティックミキサーの流速が速すぎて乱流が発生する
「カタログ通りの圧力で運転しているのに気泡が出る」というケースで、配管のパッキンを変えたら解決した、というのは私も何度も経験しました。
現場でやってきた対処法
対策は脱泡と粘度コントロールの2軸で考えます。
- 真空脱泡機構を持つディスペンサーを選ぶ、もしくは別工程で脱泡する
- 材料を25〜30度程度にプレヒートして粘度を下げる(粘度が高いと気泡が抜けにくい)
- 配管のパッキン・継手を年1回点検する
- 容器交換は加圧型のディスペンサーを選ぶか、手順書で「ゆっくり接続」を徹底する
- 重要な工程では、塗布前に主剤・硬化剤を真空脱泡してから投入する
エポキシのように粘度が高い材料を扱う場合、温調と脱泡をセットで持っている装置を選ぶと、現場の負担は劇的に減ります。
トラブル3:ミキサーやヘッド内での硬化・残留
これは、装置を止めた瞬間から始まる時限爆弾みたいなトラブルです。
起きる症状
- ミキサーの吐出口が詰まって出ない
- 出ても色ムラ・スジが入る
- 配合比が合わなくなる(残留した古い材料が混ざる)
- ノズルが固まって交換になる
- 朝イチの始業時に毎日トラブルが出る
製造業の現場では、ライン停止時間の9割が予期せぬ装置トラブル、なんてこともあります。残留・硬化はその典型です。
主な原因
このトラブルは、可使時間(ポットライフ)の理解不足が引き金になっていることが多いです。
- 材料ごとのポットライフを把握していない
- 昼休みや工程切替時にミキサーを放置する
- 使い捨てスタティックミキサーの交換タイミングが曖昧
- 動的ミキサーの場合、洗浄液(フラッシング材)の選定が合っていない
- 装置停止時のヘッド管理ルールが現場に共有されていない
ポットライフは温度に強く依存します。25度で30分の材料が、夏場の30度の現場では20分を切ることも普通にある。
現場でやってきた対処法
「止まる前提」で運用ルールを組むのが定石です。
- 材料のポットライフを温度別に表にして、ヘッド付近に貼る
- 一定時間ライン停止が見込まれる場合、ミキサーを即交換するルールを作る
- 動的ミキサーの場合、フラッシング材と廃液回収の手順を作業手順書に書く
- 使い捨てスタティックミキサーはロット番号と装着日時をマジックで書く(誰がいつ付けたかを残す)
- 朝イチ始業時のテスト吐出を必須化する
スタティックミキサーと動的ミキサーの違いについては、武蔵エンジニアリングが公開している2液混合ディスペンサーの基礎解説が分かりやすくまとまっているので、装置選定の段階で読んでおくと判断しやすくなります。動的ミキサーは可動部があるぶん混合性能は高いですが、洗浄の手間とコストがかかる。スタティックミキサーは使い捨てで運用がシンプルですが、消耗品コストがかさむ。どちらを選ぶかは現場の運用負荷とコストで判断します。
トラブル4:吐出量のバラツキと液ダレ・糸引き
このトラブルは、ワークの外観や次工程の歩留まりに直結します。
起きる症状
- 吐出量が日や時間でばらつく
- ノズル先端から滴り落ちる
- 吐出停止時に糸を引いてワークを汚す
- 塗布パターンが乱れる
- 後工程で組立時に位置決めが狂う
「品質的には問題ないけど、見た目が悪くて検査ではじかれる」というのは、ある意味で一番もったいない不良です。装置の調整次第で確実に減らせるからです。
主な原因
液ダレ・糸引きの原因は、装置側と材料側の両方にあります。
- ノズルやパイプのサイズが材料粘度に合っていない
- 表面張力が弱い材料を細いノズルで吐出している
- サックバック(吸い戻し)機能の設定が不適切
- ニードルの長さや先端形状が用途に合っていない
- 吐出停止時の圧力解放タイミングがずれている
サックバック機能を持つ装置で「サックバック量を強くしすぎてエアを吸い込み、次の吐出で気泡が出る」という二次トラブルもよく見ます。
現場でやってきた対処法
ここは試行錯誤の領域なので、現場テストが基本です。
- 材料の粘度に合わせてノズル径を選定する(メーカーの推奨表をベースに微調整)
- サックバック量はテストパターンで段階的に最適値を探る
- 表面張力が弱い材料はテーパーノズルやニードル先端形状で対応する
- 装置のテストルームで実際の材料・ワーク・条件で試打させてもらう
- 始業前にテスト吐出パターンを決めて、毎日同じ条件で確認する
国内メーカーは多くの場合、テストルームを開放しています。導入前に自分の材料を持ち込んで試打させてもらうと、カタログでは分からない部分が見えてきます。これを使わない手はありません。
トラブル5:粘度変化(温度・ロット差)に追従できない
最後に、見落とされがちで影響が大きいトラブルです。
起きる症状
- 朝と昼で吐出量が変わる
- 季節変動で歩留まりが上下する
- 材料ロットが切り替わると不良が出る
- 雨の日と晴れの日で品質が変わる
- 工場の場所(窓際・空調近く)で結果が違う
これは「装置のせい」だと現場が思い込みやすいトラブルです。でも、本当の犯人は材料と環境です。
主な原因
粘度は温度の変化に対して反比例の関係を持ちます。温度が上がれば粘度は下がり、温度が下がれば粘度は上がる。これが吐出量に直結します。
- 装置に温調機構が無い、または機能していない
- 材料の保管温度が一定でない(倉庫と現場の温度差)
- 工場内の空調が効いていない、または場所による温度ムラがある
- 材料ロットによって粘度の初期値が異なる
- 容器内で材料が分離している(撹拌せず使っている)
私が経験した典型例は、冬の朝イチに材料を冷えた倉庫から持ってきて、すぐ装置にセットしたケース。粘度が高すぎて吐出量が出ず、ライン停止になりました。
現場でやってきた対処法
温度を制する者は混合吐出を制す、というくらい温度が大事です。
- 温調機構付きのディスペンサーを選ぶ(後付けは難しい)
- 材料を使用前日から現場に置いて温度ならしをする
- 材料容器を保温ジャケットで包む、もしくは恒温庫に入れる
- 工場の空調を季節ごとに見直し、装置周辺の温度を測定する
- ロットが切り替わるタイミングで吐出量チェックを必ず実施する
- 材料メーカーから粘度ロットデータをもらい、装置側で吐出条件を補正する
温調機能は、初期投資としては高く感じるかもしれませんが、年間の不良コストを考えると元は取れます。
予兆を見逃さないための、現場で運用しているチェックリスト
トラブルを「起きてから対応する」のではなく、「予兆で気づく」運用が理想です。私が現場で実際に使っていたチェックリストを、参考までに紹介します。
始業前(毎日)
- 吐出量チェック(A剤・B剤を別吐出して重量測定)
- ミキサー外観目視(変色、残渣、漏れ)
- 配管接続部の緩み点検
- 材料温度の確認
工程の節目(ロット切替・休憩明け)
- テスト吐出パターンの確認
- 配合比の重量チェック
- ノズル先端の液ダレ・糸引き目視
- 吐出音の異常確認(普段と違う音はトラブルの兆候)
終業時(毎日)
- ミキサーの状態判断(交換 or 継続)
- ヘッド洗浄またはフラッシング
- 装置の停止モード確認
- 材料残量と翌日分の段取り
これを「やる人」を決めて、紙に印刷してヘッド付近に貼っておく。デジタル管理が進んでいる現場でも、紙の運用が結局一番続きます。
装置選定の段階で「トラブルを減らす」ために確認したいポイント
ここまで運用面の話を中心にしてきましたが、装置選定の段階でトラブルを未然に減らす視点もあります。実際、装置選定で7割は決まると思って良いです。
確認したいポイントを整理します。
- 容積計量方式かどうか(粘度変動に強い)
- 温調機構が内蔵されているか
- 真空脱泡機能の有無
- スタティックミキサーと動的ミキサー、どちらに対応するか
- メーカーがテストルームを開放しているか
- 国内メーカーで、現場まで来てくれるサポート体制があるか
- 既存設備との連動(PLCやMESとの通信)が可能か
国内ディスペンサーメーカーの中で、長年2液の混合吐出を専門にやっている会社の一つに、ナカリキッドコントロール(NLC)があります。同社のウェブショールームで混合吐出ユニットの製品ページが公開されているので、検討の入口として目を通してみると、どういう構成で2液の精密吐出を実現しているかのイメージが掴めるはずです。容積計量方式や脱泡・温調まで一体で考えられる設計は、トラブル予防の観点でも参考になります。
最終的にどのメーカーを選ぶかは、扱う材料・生産量・現場の運用体制によって変わります。1社のカタログだけで決めず、最低でも3社のテストルームを回って、自社の材料で実際に試打する。これが私の推奨です。
まとめ
混合吐出で起こりがちなトラブルを5つ、現場での対処法と一緒に紹介しました。改めて整理すると、
- 混合比のズレ
- 気泡混入
- ミキサー・ヘッド内での硬化・残留
- 吐出量バラツキと液ダレ・糸引き
- 粘度変化への追従不足
どれも「装置だけで解決する」ものではありません。装置・材料・環境・人の4点セットで品質が決まる、というのが15年やってきた結論です。
ありがちなのは、トラブルが出たときに装置メーカーに電話して「直してくれ」と言うパターン。気持ちはわかります。でも、装置側のチェックを終えたら、次は材料温度、次は容器交換手順、次は作業者の運用。これを順番に潰していくほうが、結果的に早く解決します。
最後に、現場の人にいつも伝えていることをひとつ。混合吐出は、装置を入れた日が完成日ではありません。むしろスタートラインです。日々の小さな違和感を拾える現場をつくれば、装置は10年単位で安定して動いてくれる。そう信じて、地道なメンテナンスを続けてみてください。
この記事が、現場で奮闘されている方のヒントになれば嬉しいです。
最終更新日 2026年5月12日 by ipppww

